時事
2026年07月07日緑の協力隊(5)

隊員には共通の衣類がありました。「緑の協力隊」というくらいですから、緑の衣類です。具体的には、緑色の帽子(キャップ)が配られます。東北電力総連の事務局から勝手に配られましたから、これまでの隊も伝統的に緑の帽子を被って活動していたのだと理解しています。
現地での活動も、この帽子を被って行います。移動時も含めて、団体行動を行うときは、全員、緑の帽子です。隊として統制がとれること、また、隊員にとっても、初めての知らない場所ばかりですが、帽子が目立って迷子になりにくいといった利点もあります。先人たちの知恵もあるのでしょう。
でも、中国内陸部に着いた時、この緑の帽子を被った我々の姿を見た現地の人たちが、後ろ指を指すように何か話しています。私は全然気づかなかったのですが、現地で合流したエスコート者がそれを目撃していました。クスクスと笑う人もいたそうです。
説明を聞くと、この地域での緑の帽子は、「妻を寝取られた男」の意味合いを持つとのこと。要するに、緑の帽子を被って歩く=恥をさらして歩く、ということです。そんな話、初めて聞きました。
でも、隊長の私としては、気にもかけません。中国人が何と言おうが、日本人は日本人、そんなの気にしていられないし、気にする必要もない。隊の統制に一役買っているのは事実で、何より、先人たちが培ってきた伝統にも重たいものを感じていました。
でも、現地の人たちから見れば非常識な衣装のようです。とある晩の酒の席で、エスコートの方と議論になります。
「帽子は外すべきだ」 「そんな必要はない」
お酒の勢いもあって、議論がエスカレートし口論にまで発展、メンバーが仲裁に入る形でその日の夜は終了しました。
翌朝、副隊長のところに行って相談します。
「昨晩は失礼した。私は中国人が何を言おうが全く気にならない。むしろ伝統を重んじたいが、意見を聞かせてほしい」
副隊長からは、「私も気になりません。でも、伝統も重要ですが、そこまでこだわらなくてもいいという思いもあります。隊員の意見も聞いてみてはどうでしょうか」
隊員の中には、よく話をしにきてくれる隊員がいました。彼なら歯に衣を着せずに率直に意見を言ってくれそうです。
「私は、妻を寝取られた男と見られながら活動を続けるのは、正直、いやです」
この意見が決め手になりました。その日以降、緑の帽子は隊としては被らなくてよいことを決めました。もちろん、日差しが強いなど本人の意思が働く場合は別です。
前日に口論になったエスコート者からは「よく決断なされましたね」。たかが帽子ということかもしれませんが、容易な判断ではないことをエスコート者もわかって進言していたようです。
なお、帰国後の反省会(慰労会)の席で、緑の帽子に係るエピソードを事務局とも共有し、翌年から緑の帽子は改めるように進言を行いました。