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方針

2024年05月07日天地明察

 先月米国本土で皆既日食が見られましたが、日本でこれが正確に予測できなかった時代の話です。

 不合理や不条理はなかなかなくならないものですが、間違っているものは間違っているとして、それを正す諦めない姿勢が大切なのは言うまでもありません。

 江戸時代の碁打ち、二世安井算哲が、算術や星にも熱心な興味があることを見染められて、幕府から新しい暦を作るよう任じられます。それまでに用いられた中国から輸入された暦にズレ(具体的には蝕(日食、月食)が外れること)が生じており、改暦という国の威信に関わる大事業を成し遂げること、当時朝廷にあった暦の決定権を幕府にもたらすことにより、暦本の売買での莫大な収入源とすることが目的にありました。

 それまでに使われていた中国の暦は宣明暦でしたが、当時より800年前のものであり、さらに新しい授時暦を入手、これが正しいものとして確信した算哲は幕府に対しこの暦に改暦するよう推挙しました。このことが正しいことを証明するために、暦による蝕の予想大会までも行いました。が、残念ながら、従来の暦どころか新しい授時暦でさえ蝕を外し、算哲は大いに打ちひしがれます。

 しかし、そこから立ち直った算哲は再び改暦に挑み、碁打ち※仲間らに支えられながら、授時暦の間違い(中国と日本の経度の違い)を正した、新たな大和暦を完成させます。

 すると、改暦の権益を手放したくない朝廷はそれとは別の中国の暦(大統暦)を採用すると決めてしまいます。しかしながら、やがて大和暦の正しさが世間に知られ、改めて貞享暦として正式に採用されると同時に、暦の決定権が幕府に移り、さらにはその功績から初代天文方として安井算哲改め渋川春海が就任しました。

 一度は幕府や皆の期待を裏切ることになったものの、諦めることなく挑み続けた算哲の姿勢は未だに語り続けられており、結果的にその苦労が結実したのは、上記の通りです。

 また、改暦の失敗責任を取って切腹することになるかもしれないことから、算哲夫婦がお互いに先に死なないで欲しいと願っていましたが、結果的に夫婦揃って同じ年、同じ日に亡くなったとは、冲方 丁(うぶかた とう)の原作本(2010年本屋大賞受賞)であり、標題の映画の話です。以上、ご存じなかった方は、機会あればご覧いただいてもよろしいかと思います。

 因みに、映画で先の夫婦役を演じた岡田准一と宮崎あおいが、その後実際に結婚することを、映画の蝕のように関係者が予測できていたかは分かりません。

 ※碁打ちは、諸国を回って指導する立場から、藩主や重要人物とも直接話ができるという特異な職業であったとされます。



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