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方針

2022年09月08日ヤマロク醤油

 標題は小豆島にある小さな醤油屋さんで、今は通販でも有名な醤油ですが、これから話題にする当時は価格競争に負けて、昔ながらの木桶を使った手作りの醤油作りから、温度管理等が容易で安価に作れる金属タンクによる工業的な醤油作りへとシフトしていました。それでも、事業がうまく行かないと判断した4代目の社長は、息子に事業を継がせることなく、就職のために東京に送りだしました。

 その息子は、逆に醤油作りが絶えることを惜しみ、しばらくして故郷へ帰るとともに、一から醤油作りを学び、4代目が倒れたことから5代目を継ぎました。倒産が時間の問題とも思われたものの、それまでの大量生産を止め伝統的な醤油作りに戻して、業務用から小売り用に転換して、味で勝負をすることにしたのです。

 それは即ち100年以上の桶が醤油蔵に並ぶような昔ながらの醤油作りの風景を中心に戻すのですが、その木桶や蔵に100種類くらいの菌が棲みついていて蔵ごとによるいろんな特徴的な味が出るということで、工業的にはどうしても出せない深い味での勝負になります。

 手間も掛かるこの製法でしたが、徐々に口コミで美味しさが伝わり、一時の経営危機を脱することができました。ただ、この経営を続けていくためには、古くなった桶を換えていかなければならないのですが、肝心の桶を作る人が島内にはいません。

 そこで、5代目の社長は島の知り合いの大工さん2人とともに、大阪で1件だけ残る職人の下で修業をして桶の作り方を学び、その技術を島に持ち帰ることにしました。

 そして、いよいよ島で新しい桶を作ろうとしたとき、桶の製作に必要な長い真竹が小豆島にないことを気付かされました。困った社長は、島内で竹炭作りが趣味と言うお年寄りに話を聞きに行くと、彼の裏山にその長い真竹があるとのこと。実はその真竹は、5代目社長の祖父が将来を考え、わざわざ植えて手入れをしていたものだったのです。祖父は遠い先のことを見据えて手を打っていたということで、5代目社長は感動しつつも、それを使って新しい桶を次々と作り、蔵に置いて菌が付くようにしているとのことです。

 100~150年のスパンで後進のことを考えるのは素晴らしいことですが、現実性も踏まえつつ少なくとも自分だけでなく自分の次の世代のことを考えて物事を進める視点も大切であると思います。



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